日本の従業員の10人に4人(40%)が、居住する都市や地域で仕事を探すには今が良い時期であると答えており、この割合は2023年以降15ポイント上昇しました。また、日本の労働者全体でみると、3分の1(33%)が転職を考えているか、新しい仕事を積極的に探しています。
2024年の帝国データバンクの調査によると、日本企業の半数以上が従業員不足だと回答しています。2024年の日本経済新聞の調査では、労働力不足を改善するため、過去最多の企業が、インフレ率の上昇に対応して従業員の基本給を引き上げました。賃上げの主な理由を労働力不足に対処するためとした企業は42.1%で、2023年から10.8ポイント増加しました。
しかし、従業員の給与を上げることは「応急処置」に過ぎず、その効果は一時的なものであり、持続的に従業員を確保し、生産性を向上させて成長を促進するといった課題の解決にはなり得ないでしょう。
日本企業にとって、従業員の離職はこれまで大きな問題ではありませんでした。しかし、この状況は一転しつつあり、労働市場の逼迫や若手社員の仕事に対する意識の大きな変化により、従業員の確保は企業にとって重要な課題となっています。
ギャラップの「世界の職場の現状:2024年版レポート」によると、日本の従業員エンゲージメントはわずか6%に過ぎず、世界で最もエンゲージメントの低い国のひとつとなっています。また、従業員の41%が日常的に多くのストレスを感じていると回答しており、個人のウェルビーイングに関して「成功している」と回答した従業員は全体の3分の1以下(29%)で、世界平均の34%を下回っています。
従業員エンゲージメントは、従業員の離職を防ぐ上で大きな役割を果たします。組織を存続、繁栄させるために必要な人材を確保するために、日本の雇用主は多くの従業員が高いエンゲージメントを持つように職場の管理方法を変えていかなければなりません。
2024年のギャラップの従業員エンゲージメントのメタ分析による検証により、従業員エンゲージメントと従業員の定着率、ウェルビーイング、生産性との関係が明らかになりました。平均年間離職率が40%以下の企業のうち、ギャラップの従業員エンゲージメントデータベースの上位25%の事業部門は、下位25%の事業部門よりも51%離職率が低くなっています。
エンゲージメントは従業員のウェルビーイングとも大きく関係します。ギャラップのメタ分析によると、エンゲージメントが上位4分の1の事業部門と下位4分の1の事業部門を比較した場合、従業員のウェルビーイングに70%もの大きな差があることが判明しました。ウェルビーイングが低いと従業員の健康と生産性を損なう燃え尽き症候群となる可能性が高くなります。燃え尽き症候群を経験することが多いという従業員は、病気による欠勤の可能性が63%、病院の救急外来を受診する可能性が23%、積極的に転職先を探す可能性が2.6倍高くなります。
エンゲージメントの高い従業員は生産性も高く、少数の従業員でより大きな成果を生み出すことができます。ギャラップのメタ分析によると、エンゲージメントが上位4分の1の事業部門と下位4分の1の事業部門を比較した場合、上位4分の1の事業部門は売上高が18%、生産性が14%高いことが明らかになっています。
貴重な人材を確保し、生産性を高め、成長を促進し深刻な労働力不足の課題に取り組むためには、日本の雇用主は職場文化を変革し、エンゲージメントを改善しなければなりません。特にハイスキルの労働者が不足している状況では、従業員エンゲージメントの高い企業が強みを持ちます。従業員のエンゲージメントが高いということだけでは労働力不足の解決とはなりませんが、労働力不足による影響を緩和することは可能です。 エンゲージメントの高い従業員は、貢献度が高く効率的に業務をこなし、また企業の評判を高めてくれることも期待できます。
エンゲージメントの高い企業文化の実現
日本企業の経営層は、従業員のエンゲージメントとウェルビーイングを促進し向上させる、持続可能な職場文化の実現に取り組む必要があります。エンゲージメント戦略を成功させるには、以下のような点を考慮する必要があります。
簡潔で、明確な目的を定めた測定: ギャラップの調査では、従業員調査の質問が35個以上の場合、測定対象が定まっていないことが明らかになっています。質問項目が多いと測定対象が定まらず、明確でないため、Z世代の従業員やその管理職は、調査によって組織に有益な情報を提供することができません。
1. リーダーが支援する側から率先して参加する側へ: 組織では、リーダーが単にエンゲージメント施策に参加するだけではなく、リーダー自らが施策を率先して実行する必要があります。ギャラップが優良事例として評価している企業では、リーダーがエンゲージメント施策を積極的に主導しています。
2. 評価よりも取り組みと改善を重視する: エンゲージメント調査に費やす時間とリソースの10%をエンゲージメント評価に充て、残りの90%を取り組みの計画と改善に充てるべきです。この取り組みは、エンゲージメント調査によって特定された課題や問題点、改善のチャンスに重点を置くことが大切です。
3. 仕事に対する意識を高める: 自分の仕事は組織の理念や目標につながっていると従業員が感じることが大切です。従業員は自分の仕事が会社全体の成功にどのように貢献しているかを理解し、仕事への誇りとコミットメントを得ることができます。
4. エンゲージメントを重要なビジネス指標として位置づける: 測定した結果は適切に管理しましょう。エンゲージメントの推移や組織内の格差を把握し、エンゲージメントを向上させる具体的な施策を打ち出すために、他の主要なビジネス指標と同様にエンゲージメントを測定することが必要です。
5. 従業員体験を向上させるための権限を管理職に与える: 従業員体験には様々な側面がありますが、いずれも管理職が大きな影響を与えます。従業員エンゲージメントの向上に重要な役割を担っている管理職は、チームを指導し、メンバーのパフォーマンス
向上を支援し、個人のキャリア形成と成長を後押しするための権限を備えている必要があります。
日本の低い従業員エンゲージメントを変えることは可能です。エンゲージメントを重視することで、従業員のウェルビーイングと生産性を向上させ、燃え尽き症候群を防ぐことができます。エンゲージメントを高めることで、従業員と組織の目標をつなぎ、管理職が魅力ある従業員体験を作る職場文化が形成され、人材不足による影響を軽減することが可能となります。